伝送線路にパルス入れて両端オープンにしてみる

■概要

 伝送線路にパルスを放り込んでから両端をオープンにするとどうなるのか見てみました。

■詳細

 終端が開放された伝送線路上にパルスを放つと開放された終端でパルスは反射し、パルスを発射した信号源の方に戻ってきます。出力インピーダンスが50Ωであれば送信元終端され、それ以上伝送線路に信号が反射することはありません。

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送信側で信号が終端される様子

 そこで、パルスが反射して戻ってくる間に信号源を切り離すとどうなるのでしょうか。パルスは伝送線路の損失でエネルギーがなくなるまで伝送線路上で跳ね返り続けるはずです(下図)。今回はこれを実験してみました。

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伝送線路上をパルスが再反射し続ける様子

■実装

 今回はパルス発射とパルス源の伝送線路からの切り離しをFPGAで行うことにしました。

  • 使用基板:Lattice FPGA(LCMXO2-256HC-4TG100C)
  • 動作周波数:133MHz
  • FPGA内の3ステートバッファを使用して伝送線路からの信号源の切り離しを行う

 FPGAの動作としては、SW入力で動作開始→3ステートバッファON→伝送線路にパルス出力→3ステートバッファOFF という動作になります(下図)。

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タイミングチャート



 今回は下記のような回路を作成し実験を行いました。

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RTL回路図

■結果

 上記の回路をFPGAに実装後、下記のように接続して実験を行ってみました。

 使用したBNCケーブルの長さは2mなので、BNCケーブルでの波長短縮率を70%程度とするとパルスが左端に入力されてからオシロスコープに届くまでは2m/(3*10^8*0.7)≒10ns程度です。

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回路接続


実験結果の波形を下記に示します。

下記は同じ信号を100ns/divと50us/divで取得したときの波形です。

下記のような波形になりました(文章中の①~③は下記波形画像中の①~③に対応しています)。

 

①想定通り伝送線路上で信号が跳ね返り続ける(片道10ns,往復で20nsなのでパルス幅は20ns間隔)

②パルスのエネルギーは減衰していき、DC成分が残る(約0.8V)

③残ったDC成分が減衰していく

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実測波形(100ns/div)

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実測波形(50us/div)

■考察

 上記①のパルスが反射を繰り返す様子は理解できます。BNCケーブルの左端から発射されたパルスが受信端(オシロ)に到達して反射→送信端に到達して反射→受信端に到達・・・・という形で反射を繰り返しています。パルスのエネルギーはBNCケーブルの損失やオシロスコープの1MΩ終端で徐々にエネルギーを失うためパルスの振幅が下がっていきます。

 それでは②~③で残ったDC電圧(約0.8V)は一体何でしょうか。

 実はこの電圧の正体は伝送線路にパルスを注入したときに注入された電荷です。

 実際に計算してみます。BNCケーブルとオシロスコープの容量を実測してみると154pFでした。電流に時間を掛けて入力された電荷量を求めると3.3V/(50Ω+50Ω)*3.7ns=122pCになります。Q=CVという式より、154pFの容量に122pCの電荷を注入したときに発生する電圧はV=Q/C=122pC/154pF=0.79Vです。②~③で残ったDC電圧(約0.8V)とほぼ一致します。

 

■まとめ

 伝送線路に信号を入れて両端をオープンにしてみると送信端と受信端の間で再反射を繰り返すことは想像できましたが、最後にDC電圧が残ることがおもしろかったです。水路に放たれた水が跳ね返りを繰り返しながら静かな水面になっていくさまに似ていますね。